とうとう、ドイツ留学の最終月を迎えました。現地の大学や、参加していた地域コミュニティの方々に別れの挨拶をし、9月16日、私はドイツを出国しました。

 今回の最終レポートでは、この1年間に行ってきた調査を振り返りながら、留学前に掲げていた目標と、調査を進める中で変化した自分の考えを整理したいと思います。

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ハウスメイトとのお別れ

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ドイツからの出国

留学の振り返りと最終仮説

 留学前、私が主な目的として掲げていたのは、企業の内部改革が成長につながる仕組みを学ぶことでした。少子高齢化によって現役世代が減少し、人手不足が進む日本では、限られた人員で成長を続けるために、労働効率を高めることが重要なのではないかと考えていたためです。

 そのため留学当初は、企業が業務を効率化するために行っている具体的な工夫に注目しました。これまでのレポートでは、Audiの生産現場、The North Faceでの勤務、小売業の運営などを取り上げてきました。商品のバーコード、生産ラインの運用、シフトや役割分担など、調査対象は異なっていましたが、共通していたのは、限られた時間や人員の中で、仕事をどのように効率化しているのかという問いでした。

 店舗での観察や実際の勤務経験、関係者への聞き取りを通じて、業務を効率化するためのさまざまな工夫を知ることができました。しかし、留学中に体調を崩し、ドイツの病欠制度について調べたことをきっかけに、私の関心は徐々に変化しました。制度の詳細についてはこれまでのレポートで取り上げたため省略しますが、調査を進める中で、制度そのものだけではなく、それを実際に利用する従業員と雇用主との関係にも関心を持つようになりました。それまでは、バーコードや作業手順、生産設備など、目に見える効率化の仕組みに注目していました。しかし、同じ制度や仕組みが存在していても、それを現場でどのように運用するかによって結果は変わります。そのため、業務の仕組みだけではなく、その仕組みを実際に運用する人や組織の関係についても考える必要があるのではないかと思うようになりました。

 その後、再び労働効率を中心に調査を進めましたが、問いの立て方は以前とは少し変わっていました。労働法や営業時間、仕事と生活の関係について調べる中で、労働効率は職場の中だけで決まるものではなく、休息や家族と過ごす時間、生活全体とも関係しているのではないかと考えるようになりました。さらにAudiやALDIの調査では、作業を速く進めるための工夫だけではなく、不要な作業を減らしたり、状況に応じて業務量そのものを変えたりする方法にも注目するようになりました。

 Audiの関係者への聞き取りでは、夏季休暇などによって働く人が少なくなる時期には、通常と同じ生産量を残った従業員だけで維持するのではなく、交代制や生産量を調整する場合があるという話を聞きました。また、人員が少ない時期には、通常の生産が続いている時には行いにくい設備関連の作業や、外部組織と連携したプロジェクトを進めることもあるとのことでした。

 この話から、人が少なくなった場合に、残った人が同じ量の仕事をこなすことだけが対応方法ではないと考えるようになりました。働く人数に合わせて生産量を変えることもできれば、その時期に行う仕事内容そのものを変えることもできます。

 限られた人員をどのように活用するかを考える際には、働く人の作業速度だけではなく、企業がどのような仕事を、どの程度行うのかを決めることも重要になります。こうした調査を重ねる中で、留学前に自分の考え方の中心に置いていた効率そのものも、より大きな仕組みの一部にすぎないのではないかと考えるようになりました。

 留学前の私は、人手不足に対応するためには、一人ひとりの労働効率を高めることが重要だと考えていました。しかし、実際にドイツで働き方を調べると、今回観察した企業では、必ずしも従業員自身に、より速く、より多く働くことだけを求めているわけではありませんでした。業務の手順を整える、不要な作業を減らす、仕事を分担する、人員の変化に合わせて業務量を調整するなど、企業側が仕事の仕組みを変えることで対応している事例もありました。そのため留学の終盤には、働く人をどのようにすればさらに効率的に働かせられるのかではなく、働く人が持つ能力を十分に発揮できるようにするために、企業はどのように仕事を設計する必要があるのか、と考えるようになりました。

 振り返ってみると、私がこの1年間を通じて考えたかったのは、個々の効率化の方法だけではなく、働きやすい環境と企業の効率をどのように両立させることができるのかという問題だったのだと思います。そこで、これまでの調査から、働きやすさと効率を両立させるためには、働く人をあらかじめ決められた仕事に合わせるだけではなく、企業側も働く人や現場の状況に合わせて仕事の仕組みを調整する必要があるのではないか、という仮説を持つようになりました。

 この仮説を考えるうえで、特に重要だと考えたのが、日常的な仕事を単純化・標準化することと、状況が変化した場合には仕事量や仕事内容を柔軟に変更できることの二つです。

 まず、日常的な業務では、できるだけ不要な作業を減らし、誰が担当しても仕事を進めやすい仕組みをつくることが重要だと考えました。ALDIを調査した際、私が最初に注目したのは商品のバーコードでした。ドイツのALDIの自社商品では、一般的な商品よりも大きなバーコードが使われており、レジで商品の向きを何度も変えなくても読み取りやすいようになっていました。一つの商品で短縮できる時間はわずかでも、多くの商品を繰り返し処理するレジ業務では、小さな差が積み重なります。ここで重要なのは、従業員自身に速く商品を処理するよう求めるだけではなく、商品や作業方法の側を変えることで、従業員が効率よく作業できる環境をつくっている点です。

 The North Faceで働いた際にも、仕事の手順や役割がある程度共有されていることで、毎回一から仕事の進め方を考える必要がありませんでした。仕事の進め方を共有することで、特定の従業員の経験や能力だけに依存せず、複数の人が同じ業務を担当しやすくなります。

 一方で、標準化した仕組みをすべての場所でそのまま使用できるわけではないことも分かりました。

 ドイツを出国した後、帰国途中に上海のALDIを訪れました。店舗のつくりや商品の並べ方にはドイツと共通する部分が多く見られましたが、ドイツで特徴的だった大きなバーコードは、私が確認した上海の商品では同じようには使用されていませんでした。今回の観察だけでは、その違いが生まれた理由までは確認できませんでした。しかし、少なくとも同じALDIであっても、ドイツで利用されていた仕組みが、そのまま他国でも使われているわけではないことが分かりました。

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  上海のALDI  9月 (一般的なバーコードと比べると多少大きいが、ドイツにある特徴的な超巨大なバーコードは確認できなかった、しかし全体の店のつくりは非常に似ており、マニュアルの効果と考えられる)

 

 この経験から、標準化とは、すべての現場を完全に同じ方法にすることではないと考えるようになりました。基本となる仕事の進め方をそろえる一方で、市場や現場の状況が異なれば、それに合わせて変更できる余地を残す必要があります。

 そして、この考えはAudiで見た事例にもつながります。
 どれだけ仕事の進め方を標準化しても、現場の状況は常に一定ではありません。働く人数、休暇の取得状況、受注量や生産計画などは変化します。そのため、あらかじめ決められた仕事量をどのような状況でも現場に求め続ければ、計画上の仕事量と、実際に現場が処理できる仕事量との間に差が生まれる可能性があります。

 Audiで聞いた夏季休暇中の対応では、働く人数が減少すると、生産量や交代制そのものを変更することがありました。また、その時期だからこそ行いやすい別の作業やプロジェクトに人員を振り分けることもありました。つまり、平常時には仕事をできるだけ単純化し、誰でも進めやすい仕組みを整える一方で、現場の状況が変化した場合には、その仕組みを固定するのではなく、仕事量や仕事内容そのものを調整することが必要なのではないかと考えました。そのためには、計画を立てる側が、現場に何人の人がいて、どの程度の仕事を処理できるのかを把握する必要があります。同時に、現場側も、自分たちがどのような状況にあるのかを計画側へ伝えられる必要があります。

 病欠制度について調査した際に考えた従業員と雇用主の関係も、このような情報共有を支える要素の一つである可能性があります。ただし、今回の調査では、信頼関係と業務調整との直接的な因果関係まで確認することはできませんでした。今回調査した複数の事例を振り返ると、作業そのものを単純化・標準化する取り組みと、状況に応じて仕事量や仕事内容を調整する取り組みの双方を確認することができました。
 このことから、働きやすさと効率は必ずしも反対のものではないと考えるようになりました。

 従業員にさらに多くの仕事を求める前に、まず不要な作業を減らし、日常的な仕事を進めやすくする。そのうえで、人員や業務量など現場の条件が変化した場合には、仕事量や仕事内容も柔軟に調整する。今回の留学を通じて私は、労働効率を高めるためには、働く人自身をより速く働かせることだけではなく、企業側が仕事を進めやすい仕組みを整え、その仕組みを現場の状況に合わせて変更できることが重要なのではないか、という仮説にたどり着きました。

 この仮説から考えると、人手不足への対応も、単純に一人あたりの仕事量を増やすことだけでは解決できないと考えています。限られた人員で仕事を続けるためには、まず現在行っている仕事の中に不要な作業がないか、特定の人にしかできない仕事が多すぎないかを見直す必要があります。そのうえで、人員や需要が変化した場合には、それに合わせて業務量や仕事内容そのものを変更できる仕組みをつくることが必要です。

 留学前の私は、人手不足という問題に対して、働く人一人ひとりの効率を高めることを中心に考えていました。しかし、この1年間の調査を通じて、人手不足への対応を考える際には、人をどのように効率化するかだけではなく、企業側が仕事そのものをどのように設計するかという視点も必要であると考えるようになりました。

 もちろん、今回の調査だけで、この考えがすべての企業や国に当てはまると結論づけることはできません。しかし、ドイツで観察した複数の事例から、働く人により多くの負担を求める以外にも、仕事の設計を変えることで人手不足や労働効率の問題に対応できる可能性があることを学びました。 

島根県への応用

 ここまでの仮説を、今後人口減少がさらに進むと考えられる島根県にどのように応用できるのかを考えたいと思います。

 まず、島根県の現状を考えると、経済規模を継続的に拡大させることだけを目標にするのではなく、人口が減少する中でも現在の経済活動をできる限り維持し、その縮小を抑えることも重要な目標になると考えます。人口が減少すれば、企業が確保できる人員も減少していく可能性があります。その中で、残った従業員一人ひとりの仕事量を増やすだけでは、長期的に対応することは難しいと考えます。

 そこで今回の留学を通じて得た人を仕事に合わせるだけではなく、仕事の側も人や現場の状況に合わせて変えるという考え方を島根県に応用すると、私は主に三つの方法が考えられると思います。この考えは、これまで述べてきた、企業側が仕事の仕組みを現場に合わせて調整する必要があるという仮説を、人口減少という島根県の課題に当てはめたものです。

 

 一つ目は、特定の人に集中している仕事や裁量を分散させることです。
 人員が減少する状況では、一人が退職したり長期間仕事を離れたりした場合の影響も大きくなります。例えば、ある業務について課長や部長など特定の人だけが判断できる状態では、その人がいなくなった場合、同じ判断をできる人が存在せず、業務そのものが止まる可能性があります。そのため、すべての判断を一人に集中させるのではなく、一定の範囲については複数の従業員が判断できるように裁量を分けると同時に、その判断に必要な情報や仕事の進め方を共有することが必要だと考えます。The North Faceで働いた際にも、仕事の手順や役割が共有されていることで、特定の従業員の経験や能力だけに依存せず、複数の人が同じ業務を担当しやすくなっていました。もちろん、すべての仕事や意思決定を誰でも行えるようにすることは現実的ではありません。しかし、その人がいなければできない仕事をできる限り減らしておくことは、人員が減少する地域で企業活動を維持する一つの方法になるのではないかと考えます。

 

 二つ目は、現場と計画を立てる側との関係を見直すことです。
 通常、企業では生産量や売上などの目標を設定し、その目標を達成するために現場が仕事を行います。しかし、人員が減少しているにもかかわらず、これまでと同じ仕事量を前提として計画を立て続ければ、計画上求められる仕事量と、現場が実際に処理できる仕事量との間に差が生まれる可能性があります。この問題については、Audiの事例を考える中でも、計画側が現場の人数や処理能力を把握し、現場側も自分たちの状況を伝える必要があると考えました。

 ここで重要なのは、単純に現場の声を聞くだけではないと思います。現場から意見を集めても、計画そのものがすでに決められていれば、その意見が実際の仕事量に十分反映されない可能性があります。そのため、計画を決めた後に現場の意見を聞くのではなく、計画を決める段階から現場の人数や処理能力を把握し、それを前提として計画をつくることが必要ではないかと考えます。そして人員や需要などの条件が変化した場合には、最初に設定した計画を絶対的な目標とするのではなく、現場と計画側が再び状況を確認し、仕事量や仕事内容そのものを調整できる仕組みをつくります。

 三つ目は、企業内部だけで人材を活用するのではなく、他の企業や組織との協力に活用することです。
Audiで関係者に聞き取りを行った際、夏季休暇などによって人員が減少する時期には、残った従業員だけで通常と同じ生産量を維持するのではなく、生産量や交代制を調整する場合がありました。また、その時期には通常の生産が続いている時には行いにくい設備関連の作業や、外部組織と連携したプロジェクトを進める場合があるという話も聞きました。

 この考え方を島根県に応用するならば、仕事を効率化して生まれた時間や人員を、単にさらに多くの通常業務に使うのではなく、他企業との共同プロジェクトなど、普段は取り組むことが難しい活動に振り向けることも考えられます。人口が減少すれば、一つの企業の内部だけで確保できる人材や知識にも限界が出てくる可能性があります。そこで、それぞれの企業が持つ人材、知識、設備などを必要に応じて組み合わせることができれば、一社だけでは難しい取り組みを行える可能性があります。

 この三つに共通しているのは、人口が減少した分を、残された人がより多く働くことで補おうとしないことです。
 仕事や裁量を特定の人だけに集中させない。現場の人数に仕事量を合わせる。そして、限られた人材を企業の内部だけに固定せず、必要に応じて別の仕事や企業間の取り組みに振り分ける。つまり、人口減少の中で経済活動を維持するためには、働く人をさらに効率化するだけではなく、限られた人材をどこに配置し、どの仕事を行うのかという仕事の設計そのものを見直すことが重要なのではないかと考えます。

 これは、留学前に私が考えていた一人ひとりの労働効率を高めれば人手不足に対応できるという考えとは異なります。今回の留学を通じて、人が減少するのであれば、残された人に同じ仕事をより多く求めるのではなく、人が減少することを前提として、それでも維持できる仕事の仕組みをつくるという考え方も必要なのではないかと思うようになりました。これは、今回の調査から得た企業側が仕事そのものをどのように設計するかという最終的な考えにもつながっています。

留学の反省点

 今回の留学における反省点の一つは、現場で働く人の視点に比べ、企業の経営や計画を行う側の視点を十分に調査できなかったことです。今回の調査では、The North Faceで実際に働いた経験や、店舗での観察、Audi関係者への聞き取りなどを通じて、現場で仕事がどのように行われているのかについて多くの情報を得ることができました。一方、調査を進めるにつれて、労働効率を考えるためには、現場の働き方だけでなく、なぜその仕事量が設定されているのか、誰がどのように人員を配置しているのか、現場の状況が計画にどのように反映されているのかを知る必要があると感じるようになりました。しかし、今回の調査では、実際に計画や経営判断を行う立場の人への聞き取りは十分に行うことができませんでした。そのため、今回たどり着いた現場の状況に合わせて仕事を設計するという仮説についても、主に現場から見た考察にとどまっています。今後同様の調査を行う機会があれば、現場だけでなく計画・経営側にも同じテーマについて聞き取りを行い、両者の認識の違いまで比較したいと考えています。

留学を終えて

 この一年間、ドイツでの大学生活や研究活動、そしてヨーロッパ各地への旅行を通じて、人間として大きく成長することができたと実感しています。大学で学んだことや今回のレポートで取り上げてきた研究だけでなく、異なる国を訪れ、さまざまな文化や価値観に触れた経験も、私自身の考え方に大きな影響を与えました。また、留学中に出会った友人、大学の先生、職場の同僚、地域の方々など、一年間で出会った多くの人々から、それぞれ異なる考え方や生き方を学ぶことができました。

 もし今、留学に行くかどうか迷っている方がいれば、私はぜひ挑戦してほしいと思います。留学では、大学の授業や研究を通じて学べることはもちろん、旅行に行くこと、人と出会うこと、時には自分一人で問題を解決することなど、日本にいるだけでは得ることが難しい経験が数多くあります。その一つ一つが、それまで自分が当たり前だと思っていた価値観を見直すきっかけになりました。留学を実現するまでにはさまざまな準備が必要であり、実際に海外で生活してみれば大変なこともあります。それでも、一年前にドイツへ渡った自分と現在の自分を比べると、この一年間の経験には、それ以上の価値があったと感じています。だからこそ、留学を「いつか行ってみたい」という夢だけで終わらせるのではなく、少しでも興味を持っている方には、ぜひ実現に向けて一歩踏み出してほしいと思います。

 最後になりますが、今回の留学を支援してくださった島根県の皆様をはじめ、現地でお世話になった大学関係者や地域の方々、そして留学を応援してくださったすべての方々に、心より感謝申し上げます