第11回目 8月の活動 ドイツでは、なぜ長期休暇を取っても仕事が成り立つのか
2026年09月03日
8月の大学生活
いよいよ大学の講義も終わり、これまで毎週のようにミーティングを重ね、プロジェクトや勉学を共にしてきた友人たちとの別れの季節がやって来ました。そんな8月は、残された時間の中で少しでも多くの思い出を作るため、友人の出身地でもあるミュンヘンを一緒に訪れました。
友人の案内で街を歩くと、有名な観光地を巡るだけでは気づけない、地元の人々の日常に触れることができました。この留学では、講義や現地での調査を通して多くのことを学びました。しかし、それ以外にも、現地の人々がどのような人生を送っているのかを知り、ドイツにおける生活への解像度が深まりました。そして、物事をより多角的に見られるようになったことが、この留学で得た最大の成果なのではないでしょうか。
写真1 (ミュンヘンの夏の風物詩 川遊び)
ドイツにおける教師の労働環境
大学で友人と将来について話していた際、友人は教師を目指していると話していました。教師を目指す理由はいくつかありますが、その一つが、ほかの職業よりも休みを取りやすく、夏には長期休暇を確保できることでした。日本では教師の長時間労働がたびたび問題になっています。同じ教師という職業であるにもかかわらず、なぜドイツと日本ではここまで印象が異なるのでしょうか。
OECDのTALIS 2024によると、日本の常勤中学校教師の勤務時間は週平均55.1時間で、調査に参加した国と地域の平均である41時間を14.1時間も上回っています。一方、実際に授業をしている時間は週17.8時間で、平均の22.7時間よりも短くなっています。つまり、日本の教師は授業以外の仕事に多くの時間を使っていることになります。授業時間を全体の勤務時間から引くと、日本の教師が授業以外の仕事に使っている時間は週37.3時間です。これは調査参加国・地域の平均である18.3時間の約2倍です。授業の準備時間は日本が8.2時間、平均が7.4時間であり、ここにはそれほど大きな差がありません。そのため、日本の教師の勤務時間が長い理由を、授業準備に時間をかけすぎているからだと説明することはできません。実際に同じ調査では、日本の教師の63%が事務作業の多さを強いストレスの原因として挙げています。さらに、日本では授業や採点だけでなく、部活動、学校行事、生徒指導、進路指導、保護者への対応なども教師が担当しています。一つ一つの仕事が特別に長いというよりも、教師が担当する仕事の種類が多く、授業以外の業務が積み重なっていることが長時間労働につながっていると考えられます。
一方で、ドイツの教師の労働時間が圧倒的に短いわけではありません。ドイツの高校教師を対象とした研究では、36%が週48時間を超えて働き、15%は週55時間を超えていました。授業がある期間だけを見れば、ドイツでも長時間労働は珍しくありません。そのため、ドイツの教師が長期休暇を取れる理由は、単純に仕事が少ないからではないことが分かります。日独の大きな違いは、労働時間の長さよりも、仕事の分担と一年間の働き方にあります。ドイツでも夏休みのすべてが教師の休暇になるわけではなく、採点、研修、会議、新学期の準備などを行う必要があります。しかし、授業がある期間に仕事が集中する一方、学校の休業期間には仕事が少なくなるため、一年の中で労働時間に大きな差が生まれます。授業期間中に長く働いた分、夏の休業期間にはまとまった休みを確保しやすい働き方になっています。また、ドイツでは放課後のスポーツ活動を地域のスポーツクラブが担当することが多く、生徒の家庭や生活上の問題にはソーシャルワーカーなどの専門職も関わります。もちろん学校によって違いはありますが、日本と比べると、学校に関係するすべての仕事を教師だけで担当する仕組みにはなっていません。そのため、学校が休みに入った後も部活動や生徒指導が続き、教師だけが学校に残る状況が生まれにくくなっています。
今回の調査から、ドイツの教師は仕事が少ないから長期休暇を取れるのではなく、忙しい時期と休める時期がはっきり分かれていることが分かりました。さらに、授業以外の仕事を地域団体や専門職と分担することで、学校の休業期間にも教師の仕事が残り続けることを防いでいます。
日本でも教師の労働環境を改善するためには、勤務時間だけを短くしようとするのではなく、教師が担当している仕事の範囲を見直す必要があります。部活動や生徒への支援を外部の団体や専門職と分担できれば、教師は授業と教育に関する仕事に、より多くの時間を使えるようになります。日独の違いは休みの長さだけではなく、教師がどこまで仕事を抱えるのかという部分にあるのではないでしょうか。
アウディ工場における夏季休暇と生産体制の事例
夏休みに関する事例は、教師だけでなく、インゴルシュタットを代表する企業であるアウディでも見られました。教師の場合は学校の休業期間に合わせて長期休暇を取りやすくなりますが、アウディでは、夏休みとして一斉に休暇が与えられるわけではありません。従業員がそれぞれ有給休暇を使用し、夏季休暇を取っています。
インゴルシュタットのアウディで働く方に話を聞いたところ、正確な統計ではありませんが、8月には体感で従業員の約80%が数週間以上の休暇を取るそうです。特に子どもがいる従業員は、学校の夏休みに合わせて休暇を取り、家族で旅行に出かける場合が多くなっています。実際にこの話をしてくれた方も、8月中旬から子どもたちを連れて2週間の旅行に出かける予定でした。さらに、その方だけでなく、私とつながりのあるアウディの従業員の多くが同じ時期に休暇を取得していました。では、多くの従業員が休暇を取る間、工場の生産はどのように維持されているのでしょうか。
数か月前のレポートにも記載したとおり、アウディの生産ラインは、通常24時間を三つの時間帯に分けた3交代制で動いています。例えば、インゴルシュタットにある電気自動車用バッテリーの組立施設では、約300人が3交代制で働き、1日に最大1000個のバッテリーを生産できる体制が整えられています。自動車の生産では、部品の供給から組立、塗装、検査までがつながっているため、一つの部署だけが通常どおり働いても生産を続けることはできません。そのため夏季休暇中は、不足した人員のまま通常の生産量を維持するのではなく、初めから生産量を下げることを前提に勤務体制が組み直されています。実際に従業員から聞いた話では、通常は3交代制で動く生産ラインを、夏の間は2交代制に減らす場合があります。勤務する時間帯を一つ減らせば、工場全体の生産量は下がりますが、限られた人員を残りの二つの時間帯に集めることができます。これによって、一つの時間帯で人員が足りなくなり、生産ライン全体が不安定になることを防いでいます。また、すべての従業員が8月に休暇を取るわけではありません。子どもがいない人や独身の従業員の中には、休暇の時期を7月や9月にずらす人もいます。8月は航空券や宿泊費が高く、観光地も混雑するため、あえて時期を外すことには従業員側にも利点があります。会社が一方的に休暇を制限するのではなく、それぞれの家庭環境や希望によって休暇の時期が分かれることで、8月にも最低限必要な人員が確保されています。
アウディでは過去にも、夏の生産量を通常の約80%まで下げ、設備が動いていない時間を整備や工場内の改修に使った事例があります。実際に、私のハウスメイトで自動運転技術の開発に携わっている方も、この時期を利用してアウディの工場内で実験を行っていました。通常の生産量が減る期間は、別の立場から見ると、普段の稼働中には行いにくい実験や設備の点検を行える機会にもなっています。生産ラインを常に最大の速度で動かすことだけが、工場全体にとって効率的であるとは限りません。従業員が少ない時期に無理に通常どおり生産すれば、残った従業員の負担が増えるだけでなく、作業の遅れやミスによって生産ライン全体が止まる可能性もあります。それよりも、事前に生産量を下げ、使われていない時間を設備点検や改修、新しい技術の実験に充てる方が、年間を通した生産には良い場合があります。さらに、アウディでは勤務時間を柔軟にする取り組みも進められています。インゴルシュタットの塗装部門では、短時間勤務によって空いた時間を、複数の作業に対応できる従業員が補う仕組みが試験的に導入されました。これは夏季休暇だけを対象とした制度ではありません。しかし、決められた従業員が常にそろわなければ動かせなかった生産ラインでも、代わりに入れる人材を育成することで、従業員の休暇や短時間勤務に対応できる可能性を示しています。
今回の聞き取りを行う前は、工場で多くの従業員が数週間も休めば、生産が成り立たなくなるのではないかと考えていました。しかし実際には、通常と同じ生産量を無理に維持するのではなく、多くの従業員が休暇を取ることを前提として、生産量と勤務体制を変えていました。休暇の時期を分散させ、3交代制を2交代制に変更し、生産量が減った時間を設備の整備や技術開発に使うことで、工場への影響を抑えています。ここから分かるのは、休暇と生産性が必ずしも反対の関係にあるわけではないことです。短期間だけを見れば、従業員の休暇によって生産台数は減少します。しかし、その期間を設備や技術の改善に使い、休暇を終えた従業員が再び通常の体制で働けるのであれば、一年全体では生産を安定させることにつながります。従業員の長期休暇を認めながら生産を続けられる理由は、休んだ人の分を残った人が無理に補っているからではありません。人が休むことを前提に、生産量や交代制、設備の使い方まで変えている点に、アウディの夏季休暇の特徴があると感じました。
長距離ドライバー調査のご報告
先月から実施しているドイツの長距離ドライバーの労働条件に関する調査は、残念ながら大失敗に終わりました。先月記載したとおり、オンライン上での調査ではまったく回答を集められなかったため、今月は実際の店舗に協力してもらいました。しかし、8月ということもあり、駐車場内にあるケバブ屋は1か月間の長期休業に入っていました。そこで、同じ駐車場にあるコンビニを訪れ、マネージャーと従業員を含めた4人に調査の趣旨を説明し、私が作成したアンケートのチラシを置いてもらえることになりました。しかし、残念ながら8月31日現在、調査開始から3週間が経過しても、回答数は0件です。当初は、長距離ドライバーから得た一次情報を基に分析を進める予定でしたが、十分な回答を得られなかったため、今後論文やEUの報告書を使って分析してみようと思います

写真2 (グーグルフォームの調査画面)

写真3 (調査現場と作成したアンケートチラシ)










