第10回目 7月の活動 7月の大学生活と長距離トラック労働者への調査の結果
2026年07月30日
7月の留学生活
今月は、とにかくテスト対策や最終プレゼンテーションに向けたオンライン・対面でのミーティング、発表練習に追われ、忙しい1か月となりました。
現在所属している学部は、日本語に直訳すると経営学部に当たります。講義によっては、最終プレゼンテーションとして新しいビジネス案を作るという、比較的一般的な課題が出されます。しかし、ほかと異なる点は、ドイツらしく、サステナビリティの視点が重視されていることです。利用者や販売者だけでなく、その他のステークホルダーにも良い影響を与え、すべての関係者に何らかの利益を生み出すビジネスプランが求められます。私たちのグループは、学生や地域住民の自宅に保管されている不要な衣類を回収し、それらを新しいデザインの衣類へ作り替えて販売する事業を提案しました。
私たちが重視したのは、単に「環境に良い商品」を作ることではありません。環境に良いという理由だけで消費者が商品を購入するとは限らないため、最初に「消費者が実際に欲しいと思う商品」を作り、その結果として廃棄物の削減にもつながる仕組みを考えました。主な顧客層は、個性的なファッションに関心を持つ学生、Z世代、若いミレニアル世代です。販売価格を1着20ユーロから99ユーロ程度に設定し、当初はインスタグラムなどを利用したオンライン販売を中心とします。その後、インゴルシュタット市内で期間限定店舗を開き、消費者が実際に商品に触れられる機会を設ける計画を立てました。
最終的な試算では、ミシンやオンライン販売環境などを含む初期費用を約1,400ユーロ、広告や店舗運営などに必要な月間費用を約700ユーロとしました。授業では、アイデアの面白さだけでなく、誰から衣類を集めるのか、顧客はなぜ商品を買うのか、どの程度の販売数が必要なのかなど、事業としての実現可能性についても考える必要がありました。
発表後には、ヨーロッパっぽく直接教授が細かいところまで事業の弱点や収益性について質問し、瞬時に自分たちの計画の甘い部分を分析でき反省することができました。また、ほかのグループの発表では自分が思いつかないようなアイデアもありとっても有意義な時間になりました。

写真1:ビジネスモデル図
オーストリアでのハイキング
これまでは、せっかくヨーロッパに滞在しているため、時間があれば近隣諸国を訪れ、その土地の文化、風土、歴史について学ぶようにしてきました。しかし、今月は試験とプレゼンテーションの準備が重なり、まとまった旅行の時間を確保できませんでした。
そこで、1日から2日程度の休日を利用し、近距離で自然や地域の文化を楽しみました。
まず、6月の最終日に、ハウスメイトと一緒にドイツとオーストリアの国境付近にある山へハイキングに行きました。8月には、このハウスメイトと一緒に、私の以前からの夢でもあるスイスで3日間の山脈横断ハイキングを行う予定です。今回は、その本番に向けた体力づくりとトレーニングも兼ねた登山でした。正直に言うと、今回の登山は、これまで私が経験してきた山とは難易度が大きく異なっていました。場所によっては道幅が狭く、一歩踏み外せば大きな事故につながる可能性のある登山道もありました。長時間歩き続ける体力だけでなく、足場を確認しながら慎重に進む集中力も必要でした。それでも、約4時間かけて標高約2,000メートルの地点まで登り切り、山頂から周囲の山々を見渡した瞬間には、大きな達成感がありました。
登山の途中では何度も疲労を感じましたが、険しい道を一歩ずつ進んで目的地に到達する経験は、普段の大学生活とは異なる充実感を与えてくれました。同時に、8月のスイスでのハイキングに向けて、体力だけでなく、荷物の重量、歩行速度、安全管理についてもさらに準備する必要があると実感しました。

写真2:オーストリアでの登山の様子
バーデンバーデンのワイン畑と温泉
皆さんは、ヨーロッパのワインと聞いて、どの国を思い浮かべますか。
おそらく、多くの方がフランス、イタリア、スペインを思い浮かべるのではないでしょうか。一方、ドイツのお酒といえば、やはりビールを想像する方が大半だと思います。
確かに、ドイツはビールで有名です。ある程度の規模を持つ都市には、その土地を代表するビールや歴史ある醸造所があります。私が住むインゴルシュタットにも、長い歴史を持つ地元の醸造所が存在します。しかし、そんなドイツも、実は世界的に評価されるワインの生産国です。今回は、ドイツのワイン畑を一度自分の目で見てみたいと思い、祝日を利用して、シュトゥットガルトから電車で1時間強、フランス国境に近い町バーデンバーデンへ出かけました。
ドイツ南西部に位置するバーデン地方は、約1万5,142ヘクタールのブドウ畑を持つ、ドイツ国内で3番目に大きなワイン生産地域です。南北約400キロメートルにわたって広がり、ドイツのワイン生産地域の中でも日照時間が長く、温暖な気候を持つことで知られています
なかでも、バーデンバーデン周辺の「レープラント」と呼ばれる地域には、丘陵地帯に沿って広大なワイン畑が広がっています。
レープラントは、ファーンハルト、シュタインバッハ、ノイヴァイアーという三つのワイン村を中心とした地域です。ブドウ畑の面積は約325ヘクタールで、その約80%では白ワイン用のブドウであるリースリングが栽培されています。この地域では、リースリングを「クリンゲルベルガー」と呼ぶこともあります。
今回は、レンタル電動自転車を使ってバーデン=バーデン周辺のワイン畑をめぐりました。しかし何と故障しておりただの重い自転車になってしまったことに加え、まるで45度レベルの坂道が続き、想像していた以上に体力を使いましたが、丘の上から見渡す一面のブドウ畑は、普段生活しているバイエルン州の風景とは全く異なっていました。
地元の畑を自転車で巡り、途中でその土地で収穫されたブドウから作られた飲み物を味わうという、まるで現地の住民になったような穏やかな休日を過ごすことができました。
さらに、バーデン=バーデンは、ワインだけでなく温泉の町としても有名です。この町の温泉文化は古代ローマ時代までさかのぼり、約2,000年前にはローマ人によって最初の入浴施設が建設されました。現在も12の源泉から、最高約68度の温泉水が湧き出しています。
今回訪れた歴史的な温泉施設は、日本の温泉とは建物の造りも入浴方法も大きく異なっていました。大きなドーム、石造りの浴場、細かな装飾に囲まれ、単なる入浴施設というよりも、一つの歴史的建築物の中を歩いているようでした。バーデンバーデンのフリードリヒス浴場は、ローマ式の入浴文化とアイルランド式の熱気浴を組み合わせた施設として知られています。館内を歩いていると、まるで古代ローマ時代にタイムスリップしたような気分になります。
今回の旅行では、ワイン畑を自転車で巡り、歴史ある温泉で疲れを癒やすという、ドイツのビール文化とは異なる魅力を体験できました。ドイツを訪れる機会があれば、ぜひ一度バーデンバーデンを訪れてみてください。

写真3:バーデンバーデンのブドウ畑と街の様子
長距離トラックドライバーへの調査
日本の物流業界が抱える問題
アマゾンの翌日配送をはじめ、現在ではボタン一つでさまざまな商品を購入できる便利な社会が実現しています。しかし、この利便性は、倉庫や配送センターで働く人々、そして商品を各地へ運ぶトラックドライバーを中心とした物流業界によって支えられています。
一方、日本の物流業界では、トラックドライバーの不足と長時間労働が深刻な問題となっています。2024年4月からは、トラックドライバーにも、休日労働を除いて年間960時間という時間外労働の上限が適用されました。これはドライバーの労働環境を改善するために必要な規制である一方、一人のドライバーが一定期間に運べる荷物の量を減少させ、社会全体の輸送能力不足につながる可能性があります。
政府は、物流の効率化などの対策を講じなかった場合、輸送能力が2024年度には約14%、2030年度には約34%不足する可能性があると推計しています。こうした問題は、一般に「物流の2024年問題」と呼ばれています。
国土交通省の資料によると、2023年度における貨物自動車運転手の有効求人倍率は2.18倍でした。これは、全職業平均の1.17倍と比較して約1.9倍の高さです。また、道路貨物運送業で働く人のうち、50歳以上が49.8%を占める一方、30歳未満は10.4%にとどまっています。つまり、ドライバーのほぼ2人に1人が50歳以上であるのに対し、30歳未満は約10人に1人しかいません。若い世代の新規参入が少ないまま、中高年層の引退や離職が進めば、人手不足がさらに深刻になると予想されます。
こうした問題への対策の一つとして、日本政府は2024年3月、自動車運送業を在留資格「特定技能1号」の対象分野に追加しました。制度の対象となるのは、トラック、バス、タクシーの運転業務です。必要な技能試験、日本語試験、日本の運転免許取得などの条件を満たした外国人が、日本でドライバーとして働ける仕組みです。制度追加時には、2024年度からの5年間で、自動車運送業全体として最大2万4,500人を受け入れる見込みが設定されました。つまり、日本では外国人ドライバーの受入れが、今後の輸送能力を維持するための政策手段として、本格的に位置づけられ始めています。

多国籍化するドイツの物流業界
一方、ドイツでは、外国人ドライバーはすでに物流を支える重要な労働力となっています。
ドイツ連邦物流・モビリティ庁の統計によると、2023年末にドイツ国内で社会保険に加入して働いていた貨物輸送の職業ドライバーは54万7,919人でした。外国籍ドライバーの割合は、2020年の24.3%から2023年には30.4%へ上昇しています。人数に換算すると、ドイツ企業に直接雇用されている職業ドライバーのうち、約16万7,000人が外国籍ということになります。
外国籍ドライバーの中で最も多いのは、ポーランド国籍の4万6,171人です。次いで、ルーマニア国籍の3万2,707人となっています。この2か国だけで合計7万8,878人となり、ドイツで直接雇用されている外国籍ドライバーの約47%を占める計算になります。
ただし、これらの統計が示しているのは、ドイツ国内の企業と直接雇用契約を結び、ドイツの社会保険制度に加入しているドライバーが中心です。
実際の国際物流では、ポーランド、リトアニア、ルーマニア、ブルガリアなどに本社を置く運送会社のドライバーも、ドイツ国内や西ヨーロッパ各地で輸送を行っています。これらのドライバーは国外の企業に雇用されているため、ドイツ国内の社会保険加入者を基準とする統計には含まれません。
そのため、ドイツの高速道路やトラック駐車場で実際に働いているドライバーは、ドイツの雇用統計から読み取れる以上に多国籍であると考えられます。
多言語アンケートの作成
このような日本とドイツの状況を比較するため、今回は、ドイツで働く長距離トラックドライバーを対象としたアンケート調査を計画し、グーグルフォームを利用して質問票を作成しました。アンケートはドイツ語と英語だけでなく、ポーランド語、ルーマニア語、ウクライナ語、トルコ語を加えた合計6言語で作成しました。
ポーランド語とルーマニア語を採用したのは、前述した通り、両国の出身者が、ドイツで直接雇用されている外国籍ドライバーの中で特に大きな割合を占めているためです。
ウクライナ語については、ウクライナ人が以前からヨーロッパの国際物流に従事してきたことに加え、2022年以降の戦争に伴う人口移動を考慮しました。トルコ語を追加した理由は、トルコ国籍のドライバーが、今回参照したドライバーの国籍別統計で上位に位置しているからではありません。昨年、島根県立大学の濱田ゼミで、1961年に西ドイツとトルコの間で労働者募集協定が締結されたことを学びました。当時の西ドイツでは、急速な経済成長に伴って労働力が不足しており、この協定をきっかけに、多くのトルコ人労働者が西ドイツへ移住しました。その後、家族の呼び寄せや定住が進み、現在ではトルコにルーツを持つ人々が、ドイツ最大規模の移民系コミュニティの一つを形成しています。今回参照したドライバーの国籍別統計では、トルコ国籍者が特に大きな割合を占めているわけではありません。しかし、ドイツ社会におけるトルコ系コミュニティの規模を考慮し、より幅広い背景を持つドライバーに調査へ参加してもらうため、アンケートにトルコ語も追加しました。

単純な機械翻訳によって質問の意味が変わったり、不自然な表現によって回答者からの信頼を失ったりすることを避けるため、ドイツ語、ウクライナ語、トルコ語については、それぞれの国や言語を背景に持つ大学の同級生にレビューと校正を依頼しました。
質問の意味を維持しながら、ドライバーが短時間で理解できる表現になるよう修正しました。
アンケートの質問内容
1.出身国はどこですか。
2.これまで、どの国でトラックドライバーとして働いたことがありますか。
3.平均して、1週間に何時間働いていますか。
4.どのくらいの頻度で自宅に帰ることができますか。勤務形態や移動距離など、すべての状況を含めて回答してください。
5.配送期限に間に合わせたり、予定時刻までに到着したりするために、休憩時間を短縮した、または休憩を取らなかった経験はありますか。
6.勤務先の会社は、長時間労働や仕事によるストレスを減らすための取り組みを行っていますか。行っている場合、具体的にどのような取り組みですか。
7.現在、仕事をするうえで最も大きな問題は何ですか。
8.この問題を改善するために、誰が最も大きな責任を負うべきだと思いますか。
9.ドイツ以外の国でトラックドライバーとして働いた経験がある場合、ドイツの労働環境を他国と比較して、どのように感じますか。
回答数0件という結果
残念ながら、今月の調査は、データ収集という点では完全な失敗に終わりました。
当初は、長距離トラックドライバー専用の駐車場を訪れ、対面でアンケートへの協力を依頼する方法を検討していました。しかし、私自身のドイツ語能力が十分ではなく、調査目的の説明や、回答者からの追加質問への対応が難しいという問題がありました。また、一か所の駐車場だけで調査を行うと、特定の国籍や運送会社に回答者が大きく偏る可能性もあります。
そこで今回は、調査場所をオンラインへ移し、フェイスブック上に存在する、ドイツ、ポーランド、ルーマニア、ウクライナ、トルコなどの長距離ドライバー向けコミュニティに参加しました。投稿では、このアンケートが商品の販売や利益を目的とした広告ではなく、日本の大学生が実施する非営利の調査であることを説明し、協力を依頼しました。
しかし、多くのコミュニティでは、管理者から投稿の許可を得ることができませんでした。投稿が承認されたコミュニティでも、実際にアンケートに回答してくれる人はいませんでした。
もちろん、面識のない海外の大学生が行う調査に、無償で時間を使って協力してもらうことが容易ではないことは、事前にある程度予想していました。そのため、回答者の中から抽選で15ユーロを提供するインセンティブも設定しました。それでも、投稿から約10日が経過した7月26日時点で、回答数は0件でした。
今回の結果から、ドライバーの労働環境について何らかの結論を示すことはできません。
一方、少なくとも今回の実施条件では、フェイスブック上のコミュニティに外部から投稿し、抽選形式の報酬を提示するだけでは、対象者から十分な信頼と協力を得られないことが明らかになりました。
回答が集まらなかった理由としては、外部の人間による投稿への警戒、グーグルフォームのリンクを開くことへの不安、抽選形式の報酬に対する信頼性の低さ、アンケートに回答する時間的余裕の不足などが考えられます。また、長距離ドライバーは勤務中の多くの時間を運転に費やし、限られた休憩時間を食事や睡眠に使う必要があります。そのため、オンライン上で偶然見つけたアンケートに、自主的に回答するだけの動機が生まれにくかった可能性もあります。
さらに、今回の方法では、私はアンケートを作成して投稿するところまでは行いましたが、回答者との間に直接的な信頼関係を構築できていませんでした。
以上の結果から、同じ方法を継続しても、十分な回答数を集められる可能性は低いと判断しました。
そこで来月は、調査場所をオンライン上から、再び長距離トラックドライバー専用の駐車場へ移す予定です。調査を予定している駐車場には、主にドライバーを顧客としていると考えられるケバブ店とコンビニエンスストアがあります。来月は、単に駐車場でドライバーへ声をかけるだけでなく、まずこの2店舗を訪問し、店舗のマネージャーに調査の目的と内容を説明したうえで、協力関係を構築することを目標とします。具体的には、店舗を利用したドライバーが、レジ横に設置した二次元コードからアンケートに回答した場合、ドリンクを1本受け取れる、または購入金額から1ユーロの割引を受けられる仕組みを提案したいと考えています。
今回の様な抽選形式ではなく、回答後に必ず受け取れる少額の報酬へ変更することで、参加への心理的なハードルを下げられる可能性があります。報酬に必要な費用は、店舗側に負担してもらうのではなく、原則として調査を行う私自身が負担する予定です。
大学の最終プレゼンテーションでも学んだように、調査者だけが利益を得るのではなく、ドライバー、店舗、調査者という、それぞれの利害関係者に何らかの利益が生まれる仕組みを作ることが成功へのカギだと思います。
今月を振り返って
今月は、大学の試験やプレゼンテーションに追われる一方、限られた休日を利用して、オーストリアの山やバーデン=バーデンを訪れることができました。
また、長距離トラックドライバーへの調査では回答を一件も得られず、当初の計画どおりに進めることができませんでした。
しかし、留学中に学べることは、授業や旅行で得られる成功体験だけではありません。自分で計画を立て、実行し、失敗の原因を分析したうえで、次の方法を考える過程そのものにも大きな価値があると思います。大学の授業で学んだ、複数の利害関係者に利益を生み出すという考え方をできるだけ早くフィールドワークに取り組み結果を出せるように来月は頑張りたいです。










