第7回目 4月の活動 ドイツにおける労働法の歴史、労働法Ⅰと留学生活
2026年05月01日
今月はこれまでも話したように、現在のドイツの労働環境やそれを実現させる労働法ができた要因を歴史的な背景から調べてみようと思いました。
十九世紀後半から産業革命と共にイギリスやアメリカではこれまでの太陽の動きに合わせて働く労働スタイルからより効率的に機械を使うためにこれまでの10時間労働から8時間労働という概念がうまれ始めました。ドイツもそんなイギリスやアメリカに続き19世紀後半から週の平均労働時間を削減していきます。19世紀中旬のドイツでは週当たり70時間弱の労働時間がありましたが後半には60時間に減少し20世紀に入ってからは55時間とさらに減少し1918年に8時間労働が法定化されたことで8時間労働の週6日労働が標準になりました。今月はこの過程やその後の今日までのドイツの労働の歴史に関して調査をしました。

写真1:1925年に制作された8時間労働を呼びかけるドイツのポスター
労働時間が法律で決められる以前、人々の働き方は現在とは大きく異なっていました。農業が中心だった時代には、人々は太陽の動きや季節に合わせて働いていました。忙しい収穫期には長時間働く一方で、冬や天候の悪い日には仕事量が減ることもありました。つまり、労働時間は時計によって正確に管理されるものではなく、自然や生活のリズムと結びついていました。しかし、産業革命によって工場労働が広がると、この働き方は大きく変化しました。工場では機械をできるだけ長く稼働させることが重視され、労働者は自然のリズムではなく、機械と時計の時間に合わせて働くようになりました。その結果、19世紀の工場労働では、1日10時間から12時間、場合によってはそれ以上働くことも珍しくありませんでした。ドイツでも19世紀中頃には、週70時間近い労働時間が存在していたとされ、工業化が進むにつれて長時間労働は大きな社会問題になっていきました。
このような長時間労働に対して、まず強く労働時間短縮を求める運動が広がったのがイギリスやアメリカでした。イギリスでは産業革命が最も早く進んだため、工場労働による健康被害や児童労働の問題も早くから表面化しました。そのため、労働時間を法律で制限する必要があるという考えが生まれていきました。一方、アメリカでは19世紀後半に労働組合運動が発展し、1886年にはシカゴで8時間労働を求める大規模な運動が起こりました。
では、なぜ8時間だったのでしょうか。これは単に偶然選ばれた数字ではありません。当時の労働運動では、8時間は労働、8時間は休息、8時間は自分のためにという考え方が広がっていました。1日24時間を3つに分け、労働、睡眠、生活・教育・家族との時間をそれぞれ確保するという考え方です。つまり8時間労働の要求は、単に仕事を短くしたいというものではなく、労働者を機械の一部ではなく、一人の人間として扱うための要求だったのです。
ドイツでも、イギリスやアメリカに続いて労働時間短縮の動きが広がっていきました。その背景には、ドイツ国内でイギリスに続き工業化が急速に進んだことがあります。19世紀後半のドイツでは、鉄鋼業、炭鉱、機械工業などが発展し、多くの人々が農村から都市へ移動して工場で働くようになりました。しかし、労働時間は長く、労働環境も厳しかったため、労働者の不満は強まり抗議に進んでいきました。そんな中ドイツは1918年に8時間労働が法定化されました。ただし、8時間労働が導入された後も、ドイツの労働時間短縮が一直線に進んだわけではありません。1920年代には戦後賠償、ハイパーインフレ、経済危機などにより、企業側は生産を回復させるために労働時間の柔軟化を求めました。その結果、一定の条件のもとで再び長時間労働が認められる時期もありました。
第二次世界大戦後の西ドイツでは、経済復興とともに再び労働時間短縮が重要なテーマになりました。1950年代には週48時間労働が一般的でしたが、1956年にはドイツ労働組合総連合が土曜日は父のものというスローガンを掲げ、週5日労働を求める運動を行いました。これは、労働者が単に賃金を得る存在ではなく、家族と過ごす時間や私生活を持つ一人の人間であるという考え方を表しています。その後、1960年代から1970年代にかけて週40時間労働が広がり、1980年代には金属産業を中心に週35時間労働を求める運動も起こりました。
現在のドイツでは、1994年に制定された労働時間法によって、原則として1日の労働時間は8時間までとされています。ただし、6か月または24週間の平均で1日8時間以内に収まる場合には、1日10時間まで延長することも認められています。つまり、現在のドイツ労働法は、労働者の健康を守ることを基本にしながらも、企業活動に必要な柔軟性も一定程度認めているのです。
しかし、現在のドイツでは71%の回答者が週4日勤務を望んでいると回答した調査が存在し、更に先日ノースフェイスのマネージャーが週40時間労働はワークライフバランスの面では理想ではないと回答するなど現在の働き方に疑問を抱いている方が多くいらっしゃいます。8時間労働が法定化されてから100年以上経つ中今後のドイツの労働時間に対する変化に注目していきたいです。
ドイツにおける労働法Ⅰ
今月から春休みが終わり現在所属しているカトリック大学の新しいセミスターが始まりました。フリームーバー留学生として僕が参加できる講義は英語講義が基本です。しかし今セミスターにはドイツの労働法を扱うドイツ語で実施される講義があります。講義自体にはついていけないのですが、自主的に学習したいということで許可をいただき学習していくことになりました。今月からこちらの講義で習った知識や、それに関連する内容も毎月のレポートでまとめていきたいと思います。
先月のレポートで僕はドイツにおけるフリーランスに関して報告しました。そんな中今回の講義では第1回と第2回にわたってドイツにおける労働者の定義などフリーランスに関する補強情報がありましたので法的な視点から分析してみたいと思います。
ドイツではまず Arbeitnehmer(労働者) と freier Mitarbeiter(自由契約スタッフ) の違いがあります。直接日本語に翻訳するのは難しいですが前者は正社員・アルバイト、後者はフリーランスやその他一時的な労働者と分けることができます。しかしここで特徴的なのが単に契約書にどのように書かれているかだけでは、その人の立場を正確に判断することができないということです。
日本なら正社員=正社員となりますが、ドイツ労働法では、労働者かどうかを判断する際に、契約上の名称よりも実際の働き方が重視されます。特に重要なのは、使用者の指揮命令に従っているか、時間・場所・業務内容を自分で自由に決められるか、そして会社の事業組織に組み込まれているかという点です。授業では、労働者性の中心に persönliche Abhängigkeit(人的従属性) があると説明されました。つまり、形式上はフリーランスであっても、実際には会社の指示に従い、決められた時間や場所で働き、会社の業務の一部として組み込まれている場合には、労働者と判断される可能性があります。
つまり、先月インタビューしたミスビジュアルさんも本人はフリーランスとして働いており、契約書もフリーランスとして契約していますが、ノースフェイスに出勤して、決められた時間働いて、本人以外では代行できないという理由から法律的視点からみると労働者として扱われる可能性が高くドイツの労働法でしっかり守られている可能性も高いです。
さらにこの件に関して印象的だったのが、ドイツ連邦労働裁判所のクラウドワーカーの判例です。この事件では、スマートフォンアプリを通じて小売店やガソリンスタンドで商品棚や広告の状態を確認する小さな仕事を継続的に行っていた人物が、労働者に当たるかどうかが問題となりました。一見すると、本人は自らアプリ上で仕事を選び、フリーランスとして働いていますが、裁判所は、仕事内容や手順がアプリ上で細かく指定されていたこと、本人専用のアカウントを通じて実質的に本人が業務を行う必要があったこと、さらに経験値やレベル制度によって継続的に仕事を受けるよう誘導されていたことなどを考慮して労働者と認めました。この事例を日本に例えると近年急速に成長しているタイミーで働く方達も場所、時間が指定されていということで労働者となり、一時的な労働者ではなく労働法で守られる労働者として扱われるということです。実際今月(4月21)にタイミーに対して賃金が直前キャンセルになったせいで支払われなかったとして利用者が集団訴訟を起こしています。もしこれをドイツの労働法の視点からみるとマッチングの時点で契約が成立し、さらに労働内容から労働法が適用され、賃金は支払いされる可能性があるのです。
またこうした法律の仕組みから形式上フリーランスであっても、実態として労働者と判断されれば、最低賃金などの労働法上の保護がされ、クラウドワークス上でもフリーランサーが飽和状態になっても最低賃金以上が保障される仕組みになっているのです。

写真2:大学図書館内の労働経済、労働法コーナー
四月の留学生活
3月から始まった春休みを使って北欧の国々をめぐるバックパック旅見にでかけました。ノルウェーのトロムソから始まった旅は正直円安が進む今の状況ではとても厳しいです。さらに円安にとどまらず世界で一番物価が高い北欧を全て回ることで様々工夫が求められました。例えばアイスランドではパンが一袋10ユーロ(約1900円)します。激安スーパーに売っている地元のサーモンも1KGで30ユーロ(約5700円)します。そんな中僕はアイスランドに行く前にToo Good To Goという前日に余った食品を格安で提供するフードロスを削減する環境に優しいサービスでパンを10個買いそれを全てアイスランドに持っていき食費を減らす行動をしました。今回の旅も様々な人と出会い、北欧の自然に触れ人間として成長したように感じました。また地元の人の家に招待され、なかなかできない体験を通じて現地の文化をより深く理解することができました。

写真3:トロムソ郊外から見えたオーロラ
今後について
今後はこれまでにアポイントメントとった方へのインタビューを時間調整しながら実施していきます。またドイツにおける労働法を毎週学習していくのでこれからもまとめて行きます。










