第8回目 5月の大学生活とドイツ・バイエルン州における労働効率に関する考察
2026年05月26日
5月に入ったドイツは、私が滞在を始めた10月から4月までの風景とは全く違う雰囲気になってきました。2月までは気温がマイナス10度近くまで下がる日もありましたが、今月は25度から30度近くまで上がる日もあり、ドイツにも本格的な初夏が訪れたように感じます。そのような中で、今月は学業とプライベートの両立がこれまでで最も難しく、非常に忙しい月になりました。
今月の大学生活
これまでにも述べてきた通り、ドイツの大学では、教授の講義を一方的に聞くだけではなく、学生が主体的に授業に参加することが求められます。学生同士で討論を行ったり、共同プロジェクトに取り組んだりする講義も少なくありません。
今学期、僕はそのような講義をいくつか履修しており、毎週2つのチームプロジェクトやプレゼンテーションに取り組んでいます。さらに、2週間ごとに企業のイノベーションに関する分析レポートを提出する必要があり、これまでの大学生活とはまた違った忙しさを感じています。なかなか自分の時間を十分に取れないのも事実ですが、その一方で、日本ではなかなか経験できない貴重な学びとして楽しんでいる部分もあります。
ドイツ文化体験
ドイツでは、祝日や日曜日は「休む日」としての文化が深く定着しています。実際に、ドイツ全土では、ガソリンスタンドなど一部を除き、スーパーマーケット、薬局、量販店をはじめとする多くの店が閉まります。祝日や日曜日には、家族と過ごしたり、バーベキューをしたり、ハイキングに出かけて自然の中でリフレッシュしたり、地域のイベントに参加したりと、さまざまな過ごし方があります。
僕自身も、たとえやるべき課題が残っていたとしても、祝日や日曜日にはできるだけ休息を取るようにし、ドイツの休む文化を体験してきました。
5月最初の祝日には、僕が住んでいるインゴルシュタット郊外の町で、春の到来を祝うお祭り「Maibaum aufstellen」が行われました。この祭りでは、町の人々が青と白に塗られた高い木製の柱を、別の長い棒で支えながら少しずつ起こしていきます。この柱は町の象徴であり、町の特産品や地元企業、職人などを示す看板が取り付けられます。そのため、外部から来た人でも、その町にどのような産業や特徴があるのかを一目で知ることができます。
当日僕の野球チームのチームメイトを含め、多くの地元の人々がバイエルン州の伝統衣装であるディアンドルやレーダーホーゼンを着て参加していました。また、このイベントの興味深い点は、当日だけでなく、その前の準備期間も含めて一つの文化になっていることです。Maibaumは町の象徴であるため、イベント当日までに隣町のMaibaumを盗むことが伝統的に認められているそうです。そして、もしMaibaumを盗まれた場合、盗まれた側の町は、盗んだ側にビールなどを贈ることで返してもらうというユニークな文化があります。そのため、Maibaumを保管している期間は、何人もの見張りをつけて厳重に守ることもあるそうです。

左 Maibaumを棒で支えて起こすプロセス
右 バイエルンの伝統的衣装を着た友人と僕
このイベントが終わった後別の友人の自宅を訪問しみんなでバーベキューをしました。78%の人が夏にはバーベキューは欠かせないと答えているようにドイツの方はバーベキューが大好きです。実際その友人宅の庭にもバーベキューのグリルがあり、毎週しているとおっしゃっていました。そのお礼として今度その友人宅で友人の家族に日本食をふるまってみたいと思います。
ドイツは世界でもトップレベルにハイキングを好むデータがあります。イタリア、オーストリア、スイスとの国境に近いアルプス山脈へは、ミュンヘンから電車で約2時間で行くことができます。都市部からわずか2時間ほどで世界有数の大自然にたどり着けるため、ミュンヘン周辺に住む人々にとって、ハイキングは特別な旅行ではなく、日常の延長線上にある身近な活動なのだと感じました。実際に山道を歩いていると、若者だけでなく、家族連れや高齢の方、犬を連れた人など、幅広い世代の人々が自然の中で時間を過ごしていました。
これら経験からドイツでは休むことが単に家で何もしないことではなく、自然の中で体を動かす、家族とのコミュニケーションをとる、地域との絆を深めるなど心身を整えることとして理解されているのだと感じました。


左 アルプス山脈の近くでハイキングする僕
右 友人宅でバーベキュー(食事中に急に猫が乗ってきました)
バイエルン州の営業時間規制から見る、ドイツの労働効率と家族への価値観
先日、アウディの方にお話を聞いている際にドイツ国内でもバイエルン州は特に営業時間に厳しいと聞きました。実際ベルリンなどほかの州は22時まで営業できる店舗があります。それと同時に少し前まではドイツ全土では土曜は全ての店舗は16時までしか営業していなかったことも教えていただきました。しかしその後各州が営業時間を自由に決められるようになってもバイエルン州は最後の全国版の法律である土曜は20時までのルールを続けているそうです。また彼曰くバイエルン州は20時まで可能になっている現在も店舗店員の家族との時間が減少しているため16時にもどすべきなどの声があると教えてくれました。そこで今月はバイエルン州に関して調べていきます。
営業時間規制の歴史を遡ると、ドイツはもともと店舗の営業に対してかなり厳しい制限がありました。1956年にはドイツ全土で商店閉店法が制定され、月曜日から金曜日は午後6時30分まで、土曜日は16時までに営業が制限されていました。1996年には月曜日から金曜日は6時から20時まで、土曜日は6時から16時まで営業できるようになりました。そして2003年には、土曜日も20時まで営業できるようになり、月曜日から土曜日まで6時から20時まで営業できるという、現在の基礎的な形が作られました。その後2006年の連邦制改革によって、店舗の営業時間は各州によって決められるようになりました。その結果、多くの州では月曜日から土曜日までの店舗営業時間が大きく自由化されました。たとえばベルリンなどでは、月曜日から土曜日までの営業時間が大幅に拡大され、深夜営業も可能になりました。一方で、バイエルン州は現在でも月曜日から土曜日まで6時から20時までという規制を維持しています。つまり、バイエルン州は2003年改正で認められた最後の全国的な営業時間の枠組みを、現在も大きく変えずに続けている州だと言えます。
ではなぜバイエルン州はこの法律を維持しているのでしょうか。その理由の一つとして、小売業で働く人々の生活時間を守るという考え方があります。営業時間が増えれば、利便性は高まります。しかしその一方で、店舗で働く従業員は20時以降も勤務する必要が出てきます。特に18時以降の時間は、多くの家庭にとって夕食、子どもの世話、家族との会話、休息に使われる時間です。そのため、営業時間の延長は、単なる経済活動の拡大ではなく、労働者の家族時間や生活リズムに直接関わる問題でもあります。そんな家族との時間、家族とのバーベキュー、ハイキング、地域のイベントを大事にするからこそ、現在でも土曜日の20時営業に関して反対意見があるといえるでしょう。バイエルン州の20時閉店は、単なる古い制度の名残ではなく、労働者の生活時間を守るための社会的な選択なのではないでしょうか。
しかし、バイエルン州は、営業時間規制が厳しいにもかかわらず、労働生産性が低い州ではありません。労働1時間あたりの実質GDPを2015年=100とした場合、2022年のバイエルン州は107.9であり、2015年から7.9%上昇しています。歴史的な背景や公平さ考慮し旧西ドイツ州に限定すると、バイエルン州はラインラント=プファルツ州に次いで2番目に高い伸びを示しています。さらに、生活満足度の面でも、バイエルン州は高い水準にあります。SKL Glücksatlas 2025によると、バイエルン州の生活満足度は7.21点であり、ドイツ16州の中で2位に位置しています。また旧西ドイツ内でトップの労働生産性を誇るラインラント=プファルツ州も7.21と同率2位に位置しています。もちろん、このデータだけで、営業時間規制が労働生産性や生活満足度を直接高めていると断定することはできません。しかし、少なくともバイエルン州の例からは、営業時間を長くしないことが必ずしも労働生産性の低下につながるわけではないことが分かります。また、ラインラント=プファルツ州の例も考慮すると生活満足度と労働生産性の間には、一定の生活満足度が高いから労働生産性も高い、またはその逆の因果関係がある可能性も考えられます。家族や休息の時間が確保されることで、労働者は仕事と生活を切り替えやすくなり、限られた時間内で集中して働くことが可能になります。その結果、長時間働くことによってではなく、決められた時間内で高い成果を出す形の労働効率が生まれていると考えられます。
バイエルン州における労働効率は、単に営業時間を延ばして売上や生産量を増やすための効率ではありません。むしろ、20時までという限られた営業時間の中で業務を完了させ、労働者の生活時間や家族との時間を守るための効率だと言えます。つまり、バイエルン州の営業時間規制は、経済活動を制限するだけの制度ではなく、労働者の生活時間を守りながら、高い労働生産性を実現するための社会的な仕組みなのではないでしょうか。
バイエルン州のシンボル
アウディ社員に対しての労働インタビュー
今月地元の空手クラブに通うAudiのPassive Safety部門で働くイオンさんに、仕事内容や労働時間、プロジェクト管理、ワークライフバランスについてお話を伺う機会がありました。
この方は、車両衝突開発を担当しており、Audiの車が世界各国の安全規制を満たし、Japan -NCAPのような新車安全評価プログラムで高い評価を得られるようにする役割を担っています。Audiでは通常、各車種で5つ星または最高評価を目標としており、そのために試作車の初期段階から量産前の段階まで、テスト計画を立て、問題があれば開発部門に共有する必要があるそうです。
労働時間については、Audiのエンジニア契約は通常、週35時間または40時間であり、回答者自身は40時間契約ですが、多くの同僚は35時間契約で働いているとのことでした。残業は珍しくない一方で、仕事量が少なくなった時期にその分を調整できる仕組みがあるそうです。つまり週の労働時間が40時間を超えることは珍しくない一方、残業を単に長時間労働として積み重ねるのではなく、その分の労働時間を今後の労働時間から引いて労働時間全体を週40時間以下、一定の範囲で管理しようとする姿勢が見られます。
また、プロジェクトの進め方についても、労働時間を考慮した仕組みが整えられています。特別なプロジェクトが始まる際には、初期段階で各従業員に必要な作業量やコストが見積もられます。もし予定されたスケジュールが現実的でない場合、従業員はフィードバックを出し、より現実的な時間計画を提案することができます。つまり上から与えられたスケジュールを無理にこなすだけではなく、実際に働く側が時間や作業量について意見を伝えられる仕組みがあると言えます。
ワークライフバランスについても、Audiでは柔軟な働き方が導入されています。開発部門では、たとえば9時から15時のような中心時間には勤務している必要がありますが、それ以外の時間については従業員が自分で勤務時間を調整することができます。また、子育てなど家庭の事情がある場合には、週35時間勤務を週20時間勤務に減らすような労働時間短縮制度を申請することも可能だそうです。このような制度は、企業の中でも家族との時間や私生活を守ることが重視されていることを示しています。
仕事を効率的に進める方法については、Audiのプロジェクト業務は反復的で、内容が明確に定義されていることが大きいと説明されていました。Audiのような大企業では、仕事を非常に細かいタスクに分解することができるため、従業員は自分の担当業務を明確に理解しやすくなります。また、複数のプロジェクトを経験する中で、自分の時間をどの業務にどのように配分すべきかを学んでいくそうです。この点から、Audiの労働効率は、単に長時間働くことではなく、業務を明確に分け、限られた時間を適切に配分することで支えられていると考えられます。
一方で、会議については改善点もあると伺いました。Audiでは会議が多すぎると感じられており、特にMS Teamsでのオンライン会議が増えてから、会議の効率は下がったと感じているそうです。会議を効率的にするためには、事前に議題を明確にし、会議中はその議題と時間配分に沿って進め、終了後には決定事項をまとめた議事録を共有することが重要だと述べていました。また、対面の会議の方が、参加者が議論に対してより強い責任感を持ちやすく、効率的であると感じているそうです。実際僕自身も大学の共同プロジェクトはオンライン上だけで進めるのではなく、対面で進めた方がより迅速に課題解決、問題の発見ができると思っています。やはりAI化、オンライン化が進んでいるからといってすべてを従来のやり方から改善するのは本当の効率化につながらないのでしょうか。事業の効率改革は数値的な効率化だけではなく、各従業員の素直な意見を踏まえたハイブリッドな改革が必要なのではないのでしょうか。
Audiの働き方には、労働時間を無制限に延ばすのではなく、あらかじめ作業量を見積もり、従業員がフィードバックを出し、柔軟な勤務時間の中でタスクを管理する仕組みがあることが分かります。これは、バイエルン州の営業時間規制から見える限られた時間内で仕事を終わらせる効率という考え方とも共通しています。つまり、結論としてやはりドイツにおける労働効率は、単に長く働いてより多くを生み出すことではなく、決められた時間の中で業務を整理し、生活時間を守りながら高い成果を出すこととして理解できるのではないでしょうか。
空手を楽しむイオンさん
今後について
もう一人エアバスで働いている方にインタビューのアポイントメントをとっています。また6月か7月に長距離トラック駐車場でドイツにおける長時間労働をトピックにした大きな調査をしようと計画しています。多少複雑で時間とコストがかかり実現できるかわかりませんが最善を尽くします。










