今回が最後の月次レポートです。6ヶ月の留学はあっという間だったような、新しいことの連続でとても長かったような、不思議な感覚です。

多くの自治体が使うソフトウェアを提供している団体に取材

 今回話を聞いたのは、オランダ自治体協会(VNG)のヤコさんです。ヤコさんのオフィスはベルギーにあるため、今回はオンラインで話を聞きました。
 ヤコさんは、オランダの40以上の自治体が利用するソフトウェア「Signalen」の管理者でもあります。Signalenは、市民が騒音や街灯の故障などの問題を市町村に報告できるアプリケーションです。Signalenが通常のお問い合わせフォームと異なる点は、AIによって市民も自治体もどちらも使いやすい設計になっている点です。具体的には、市民が街灯の故障について記載すると、自動で地図を提示してどの街灯かを選択してもらったり、その報告を自治体の適切な部署に自動で送信したりする機能があります。

画像1_Signalenの画面
(画像1_Signalenの画面)


 私がSignalenにとても興味を持ったのは、Signalenがオープンソースソフトウェア(以下、OSS)である点です。OSSとは、プログラムが一般に公開されており世界中の誰でもその開発に加わることができるソフトウェアのことを指します。松江市には「松江オープンソースラボ」があるため馴染みがある人もいるかと思います。
 自治体の業務で使うソフトウェアをOSSとして開発する利点は主に以下の2点です。
- 自治体間で資産(プログラム)を共有できる
- ベンダーロックイン(契約した企業を変えることができない問題)を避けられる
 しかし、日本でもオランダでも政府系のシステムをOSSとして開発することはまだメジャーではありません。ヤコさんによるとSignalenが成功した要因は以下の3つに集約されるとのことでした。

  1.  自治体主導のOSS開発:Signalenはアムステルダムの自治体が発足させたプロジェクトで、初期のエンジニアと2~3年の資金はアムステルダムが負担した
  2.  持続可能な資金調達モデル:各自治体がサービス料としてSignalenの運営費をVNGに支払う仕組みを構築
  3.  市場プレイヤーの参画:ソフトウェア自体は無料だが、その導入・運用・サポートは地域の企業に委託することで、企業も安定したビジネスを展開できる

 私が開発しているソフトウェアも、OSSとして打ち出すかそうしないかを考えている段階なので、ヤコさんの話はとてもためになりました。

画像2_ヤコさんとのオンラインミーティング
(画像2_ヤコさんとのオンラインミーティング)

開発している備蓄需要シミュレーションソフトの改善

 この留学を通じて、多くの方に私のソフトウェアについて多面的なアドバイスをいただきました。前述のOSSとしての打ち出し方や、製品の広め方、世界的な課題との共通点、市民への見せ方(画面構成)などです。
 特にコード面で変わったのは市民への見せ方です。このきっかけは、フローニンゲン自治体で市民コミュニケーションを担当するティムさんから「市民はグラフだけでも忌避感を覚える場合がある」との指摘をもらったからです。そこから、まさにSignalenのようにロジック部分はシステムの裏側に回し、極力画面上に見せないようにしました。以下、1枚目が元々の画面で2枚目が新しい画面です。

画像3_市民向けの画面_旧
(画像3_市民向けの画面_旧)

画像4_市民向けの画面_新(左PC版右スマホ版.)jpg
(画像4_市民向けの画面_新(左PC版右スマホ版.))

 企業の防災担当者向けには別の画面を用意しています。企業内担当者は、情報収集がうまくいっていないという課題があります。それを解決するために、各企業が必要とする情報を1枚にまとめたアクションレポートの自動発行機能を開発しています。こちらは好評でこのまま開発を進めていこうと思います。

画像5_企業向け画面
(画像5_企業向け画面)

留学のまとめ

 留学前からあたふたしていた私ですが、日本でもオランダでも様々な人に助けられ、無事に留学を終えることができました。関係者の方々、ありがとうございました。
 この事業活動を通じての一番の驚きは、オランダ/ヨーロッパの企業・団体のオープンさです。メール一本でほとんどの企業や団体がインタビューを快諾してくれました。そのおかげか、私にとって初めてのヨーロッパでしたが、今では生活面でもビジネス面でも海外に出ていくハードルがかなり低くなったように感じます。このことが、どんな形で自分の将来に影響するかとても楽しみです。
 この3月で私は大学を卒業します。これからは、インタビュー先の方々のように実際に社会に出て様々な問題を解決していく立場になります。今回いただいた奨学金と支援は、将来広く社会に還元していく所存です。