クリスマスはフローニンゲンで過ごしました。ヨーロッパの他の国から来た留学生はほとんど家族のもとへ帰るため、学生寮は奇妙なほどに静かです。街では、12月いっぱいクリスマスマーケットが開催され、普段は何もない広場にクリスマスツリーだけでなく、巨大な滑り台やスケートリンク、さらには観覧車も設置されます。飲食店の屋台がたくさん並び、毎夜多くの人が訪れてとても賑やかです。

写真1_フローニンゲンのクリスマスマーケット1
(写真1_フローニンゲンのクリスマスマーケット1)

写真2_フローニンゲンのクリスマスマーケット2
(写真2_フローニンゲンのクリスマスマーケット2)

Groningen自治体へのインタビュー

 この留学の大きなテーマは「ビジネスで社会問題をどう解決するか」で、そのために自分でソフトウェアをいくつか開発しています。しかし、実際に解決を図るには、ものを作るだけでは不十分です。同じく重要なのは、どのように社会に実装し、運用するかという点です。今回はその点を学ぶために、日頃から社会問題の解決に取り組んでいるGroningen自治体に話を聞きに行きました。
 インタビューに応じてくださったのは、市民コミュニケーション担当のトムさんと、交通エンジニアのトーマスさんです。取材では主に、民間企業との連携や、組織内での知識の蓄積・人材育成についてお話を伺いました。
 特に興味深かったのは、オープンソースソフトウェア(OSS)の活用です。OSS(Open Source Software)とは、プログラムのコードが公開され、誰でも自由に使用・改変できるソフトのことを指します。OSSを使うことで、同じ機能を持つシステムを自治体の数だけ開発する必要がなくなり、全体的なコストを抑えるとともに、単一の開発企業に依存しなくてすむメリットがあります。
 Groningen自治体で使われているOSSは「Signalen」というシステムで、住民からの苦情や報告をAIで処理します。従来は、自治体の担当者が手動で住民からのメールを担当部署へ振り分けていました。このシステムでは、AIを用いて住民の意見を自動で整理・振り分けるだけでなく、住民が入力している最中に内容に応じた最適な質問や情報を提示します。
 たとえば、住民が「街灯が切れている」と報告すると、地図が表示され、該当の街灯を選択できるようになります。さらに、報告には自動で「街灯」などのタグが付加され、適切な部署に振り分けられます。その結果、自治体内の業務が効率化されるだけでなく、住民にとっても使いやすい仕組みになっています。事実、年間約1,400件だった報告は、導入後に約2,000件へ増えたそうです。
 OSSは一般的なパッケージソフト(例:Windows Office)のように、パソコンにインストールすればすぐ使えるわけではありません。導入前に街灯の位置情報など各種データを用意し、導入後もアップデートや管理が必要です。自治体がOSSを管理するのは難しいため、別の運用体制が求められます。この点が気になり聞いてみたところ、Signalenという団体がOSS自体を管理し、オランダ自治体協会(VNG)が自治体との橋渡し役を担っているとのことでした。

写真3_ティムさんと
(写真3_トムさんと)

企業・団体へのインタビューの段取り

 OSSを使ったAIシステムの運用について、非常に興味深い話を伺えました。
 さらに関心を持ったのは、このシステムの開発と導入についてです。10月のレポートで、政府調達の入札制度はEUの条約によって決まっていると書きましたが、今回のAIシステムは、通常の入札とは異なるプロセスで導入されたのかと思いますが、よく分かりません。
 そこで追加で、Signalenおよびオランダ自治体協会(VNG)にもインタビューを行うことにしました。現在、日程を調整中で、1月か2月に実施する予定です。

写真4_霧の深い日のフローニンゲン
(写真4_霧の深い日のフローニンゲン)